ある日、中村さん(仮名)という男性が、私のカウンセリングを受けにいらっしゃいました。
血液がん(悪性リンパ腫)になってしまって苦悩しているというのです。
「原因に心当たりはありますか?」とお聞きしたところ、男性はその身に起きた出来事を静かに話し出しました。
中村さんは、最近離婚したのだそうです。なぜ離婚することになったのか?
中村さんは彼のお父さんが所有している家に住んでいました。奥さんとお子さんも一緒でした。
しかし、お父さんが知り合いの借金の保証人になっていて、肩代わりをすることになってしまったのだそうです。
しかたなく土地を売ったお父さん……。
そして息子である彼の一家も、その家には住めなくなってしまったというわけです。
それを知って怒り出したのが、奥さんのご両親です。
それが引き金となり、親子関係も夫婦関係も悪くなってしまったため、離婚することになったのです。
奥さんはお子さんと一緒に出て行ってしまい、彼にとってそれは大変なショックでした。
離婚後、しばらく経った時のこと……。
別れた奥さんから「もう養育費を送ってこなくていい」という連絡が入りました。
養育費を払うことでお子さんとのつながりを感じられていたので、子どもと縁が切れてしまうと思うと、さらなるショックが中村さんを襲いました。
そんなことがあった上での発がんでした。
彼の自己分析によると、がんの原因は離婚による心理的なストレスではないか、ということでした。
もちろん、過大な精神的ストレスを受けてがんにかかる人は大勢いますから、彼の考えは当たっているでしょう。
話を聞いた私は、こう答えました。
「何か、問題あるの?」
そう言われて、中村さんはとても驚いていました。
妻子と離れ離れになって、心に重い負担を抱え、がんになってしまった。「これ以上大きな問題があるだろうか」と思ったことでしょう。
「みんないい人じゃないですか」
私は、そのまま話を続けました。どんな窮地にあっても、その視点は変えられることを伝えたかったのです。
まず、お父さんです。たまたま保証人になって借金を肩代わりすることになりましたが、それまでは自分の家に彼らを住まわせてくれました。とても優しいお父さんじゃないですか。
そして、奥さんの両親です。激怒したものの、それは自分の娘や孫を心配してのこと。
激怒するほどまでに、子どもや孫のことを気にかけてくれているのですから、非常に愛情深い人です。
さらには奥さんですが、養育費がいらないと言う。「払ってくれ」と言うのが普通でしょう。それなのにいらないとは、ありがたいことです。だから、奥さんもいい人です。
そして、がんになったご本人も、とてもいい人ですよね。今回のことで悩んで、がんになってしまった。もし悪い人なら、こんなにも悩むことはなかったでしょう。
つまり、この男性のまわりもご本人も、みんな愛の深い、いい人だと結論づけられるのです。
この日のカウンセリングが終わってから数か月後のこと……。見事にがんを克服された中村さんと、私は再度お会いすることができました。