心のしくみ3-2 心の構造(2)―「業」(潜在意識)

心のしくみ

2 心の構造(2)―「業」(潜在意識)

インプットの限界―――

 

「ならば、この潜在意識に強く刻み込まれるほど徹底的にプラス思考をインプットして植え付ければよいのではないか」と思われる向きもあるかもしれませんが、結局、プラスのインプットは逆効果しかもたらさないことが多いのです。

 

よく、潜在意識にインプットするために、精神状態を落ち着かせ、呼吸法をつかったり瞑想をしたり、また脳波の状態を、記憶に適した状態にコントロールしてから、プラス思考を何度も反復する手法がとられます。

 

たしかに、頭の記憶には効果的にプラス思考が刻まれるかもしれませんが、頭の中がプラス思考の塊になるだけで、業の部分にはほとんど影響がありません。

 

仮にあなたが、数ヶ月にわたり一心不乱にプラス思考を何度も反復することで頭にインプットしたとします。

 

しかし、その記憶は、あなたのこれまでの数十年の人生で刻まれた記憶、そしてさらには、先祖代々、前世からも延々と引き継いでいる何千年、何億年の記憶と比較したならば、あたかも大海に垂らした一滴のインクのようなものに過ぎないのです。

 

インプットの弊害―――

 

また、業の心に刻まれた過去の記憶がマイナスばかりなのに、頭の知識がプラスになると、心の奥はマイナスのまま、頭だけがプラスという状態になります。この状態の危険性は、頭を道具にたとえるとわかります。

 

たとえば包丁という道具があります。包丁は、研げば研ぐほど、切れ味が鋭くなっていきます。

 

この包丁を、愛と感謝に満たされた、プラスの心をもった人が使うと、どういう結果になるでしょうか。きっと、愛情のこもった美味しい料理、という結果につながるでしょう。

 

しかし、恨みや憎しみばかりのマイナスの心の人が使ったらどうでしょうか。もしかしたら、他人を傷つけるという結果になる可能性もあるのです。

 

どんなによい道具でも、どういう心でそれを使うかによって、まったく違う結果になってしまうのです。

 

では、「プラス思考」という道具を「マイナスの心」で使うとどうなるでしょうか。

 

結果は「人を裁く」か「自分を裁く」という行動につながってしまいます。

 

「あいつらは、自分が知っているプラスの生き方をしていない。なんてレベルが低いんだ……」と他人を責めたり、「私は、こんなにすばらしい愛と感謝の教えを勉強しているのに、いつになっても結果が出ない。なんて自分は駄目なんだ……」と自分を責めたりするのです。

 

このことは、正反対のようですが、その性質はまったく同じです。矢印の向きが逆になっただけの話です。

 

つまり、包丁を手にして他人を傷つけるか、自分を傷つけるか、いずれにしてもその包丁の切れ味が鋭ければ鋭いほど、マイナスの結果につながってしまうのです。

 

道具を使う人の心、影響力の最も強い業の心を変えることができなければ、プラス思考という道具を磨けば磨くほど、逆効果になってしまうわけです。

 

あなたはどの方法を選びますか―――

 

さて、出来事の捉え方やそれに対する反応の原因となる業の心に手を付けることの重要性を述べました。そして、頭にインプットして学ぶことでは、業の部分に影響を与えることはほとんど不可能に近いこともお話ししました。

 

では、私たちは、どのようにすれば、この業に手を付けて、過去の記憶を透明にすることができるのでしょうか。

 

実際、この業に手を付けようと世界中でさまざまな手法が存在し、宗教や各種心理療法などで、心の浄化が試みられてきました。

 

その手法の例をあげると、「過去を内観して、マイナスの記憶を、両親への感謝などをきっかけにプラスに転じる」「催眠療法などを利用して、幼少時の記憶を呼び覚まし、癒す」「過去世の記憶に原因を見つける」「心理カウンセリングや様々なセラピー、ヒーリングなどで過去のマイナスの記憶を、一枚一枚薄皮を剥ぐように取り去り、またはプラスに転じ、深い境地を目指す」というものなど、多種多様です。また、瞑想や座禅という手法もあります。

 

たしかに、いずれかの手法に取り組むことで心が癒されたり、忘れかけていた父母への感謝から、過去のトラウマがプラスに転じ、気分がよくなったり、心が洗練されたりと、その時は絶大な効果を感じられる場合もあります。

 

しかし、これらの手法は対症療法的な要素が多く、時間がたつと、また別のマイナスの心に支配されたりして、その場限りで終わるパターンが少なくないようです。

 

これら一つ一つの手法は、ちょうど真っ暗闇の広い部屋を懐中電灯で照らそうとしているようなものです。こちらを照らせば、あちらが暗く、あちらを照らそうと向きを変えると、今度はこちらが暗くなる、ということの連続で、その場しのぎなのです。

 

では、どうすればよいのでしょうか。

 

懐中電灯ではなく、スイッチひとつで暗闇を消し去る天井の照明のようなものがあったとしたらどうでしょうか。

 

もし、人間の心が頭と業の二層だけだったとしたら、人間として生まれたことは悲劇だったかもしれません。

 

しかし、二層構造になっているあなたの「頭」、そして「業」のさらに奥、心の一番奥にまったく別の心が存在しているのです。